先月は「この号が皆様に読まれる日は新元号が発表される日で、僕のこのゆる～いエッセイも300回記念の日!」などと浮かれたことを書いてしまいましたが、この号が出る日は、なんと! 新しい年号が実際に使われ始める日なんですね。二か月続けて、自分的にはなんちゃって記念イヤーです。
とはいえ、テレビをつければあちこちのニュース、情報バラエティー番組などで新元号についてバカ騒ぎをしているので、その辺はもうふれないようにしましょう。あ、これ書いてるの4月2日です。
というわけで、いつもの酒場ふにゃふにゃ話しに軌道修正します。
関内や横浜で打合せなどがあって、途中下車しやすいのは新杉田駅、もしくは京急の杉田駅。ご存知の方も多いと思うんですが、その二つの駅をつなぐ商店街がとてもいいんですね。とても元気な魚屋さんや、やすい八百屋さん、なんでも売ってる金物屋さん(僕、鍋類は必ずここで買います)、こんなに安くていいのか？とくびを傾げたくなる洋品屋さん(僕はパンツや靴下はたいていここで買います)。
と、まぁ魅力的な商店街なのですが、昨今、チェーン系の居酒屋さんが増えてきてひと昔前の昭和な感じが薄れきっています。
面白くない。新元号、関係ない！
ただ、そんな、つまなくなりつつある商店街の中にいつの間にか、ひっそりと間口の狭い立ち飲み屋さんが開店していたんですね。
立ち飲みマニアの僕としては、とりあえず入ってみねばなるまい。と、スキップして(大げさ)入ってみたのです。
いいお店です。店員の女性たちも、全く仕事に慣れてなくて、メニューに書いてある料理も恐る恐る作っていたし、その失敗をとにかく笑顔でチャラにしたり。
でもそんな中で一人だけちゃんとお料理ができる女性がいるんですね、まきちゃんといいます。とてもスレンダーで猥談などいっさい言わないサウスポーの女の子(47歳)。
先ほど、「ちゃんとお料理ができる女性がいる」と書きましたが、それは、この、まきちゃんです。
まきちゃんは、いろんなお料理を適当に作って大皿に盛りつけ、カウンターの上に並べるのですが、ちゃんとしたお料理にに見えて、本当はたいして美味しくないというデンジャラスな料理ばかり。ただその辺は自分でも自覚しているらしく、こちらが料理を頼もうとしても、それマズイからやめときなよ、などと笑ながら止めるというていたらく。
とはいえ、お気楽な飲んベイには、そのくらいのアバウトさが丁度よくてね、立ったまんまホッピーを飲んでバカ話をしている数十分がほんわか楽しいんですね。
さて、そんな料理上手なんだかいい加減なのかわからない、まきちゃん。イラストが上手です。仕事中にずり落ちてきたパンストの情景を、伝票の裏に絵に描いてメールで送ってくれるんですね。
バカですね。
でもそのイラストが何とも言えない味があるんですね。
上手いとか下手とか、そんな物差しじゃなくてね。
すでに画伯。
だから僕は言いました。
伝票の裏に「今日のずり落ちたパンストの情景」を毎日描けと。
そして作品がまとまったら、作品集を作ろうと。なんだったら必要な文章があったら、僕が書こうじゃないの、と。
んでまた料理のハナシに戻りますが。
まきちゃんが作る「だし巻き卵」はほんとうに優しい味です。だし巻き作って、と頼むと、甘いのがいい？それともしょっぱいのがいい？って聞かれるので中間の味でというとめんどくせ、と言いながらその場でタマゴを割って手際よく優しい味の卵焼きをこさえてくれます。
短い杉田商店街にある狭いお店のお話でした。令和、になったちゅうのに。
エッセイスト 北園 修
Photo：藤間 久子『Slowly』
