湯豆腐なんかで飯が食えるか。というコトバが唐突に頭の中に降りて来たので、今号はそのコトバをタイトルにして、そこに基づいて書き進めて行くことにいたします。思えば長年ここで書かせていただいておりますが、タイトルを先に決めて書き始めるって今までなかったなぁ、と皆さんにはどうでもいい自分勝手なビミョーな感慨。
あ、またどんどん脱線してしまう予感がありますので、まず、言わなきゃいけないことをとりあえず。
皆さん、明けましておめでとうございまーす。でも、これを書いているのは12月1日でーす。来年も、あ、いや、今年も仲良くしてください。
さて、湯豆腐なんかで飯が食えるか問題です。随分と前になりますが、社会人になりたての後輩を誘って、ちょっといい感じの居酒屋さんでお酒を飲んだ時のことです。
新鮮なお刺身や、凝った肴がそろっている、と。ま、とりあえず適度に冷えた瓶ビールで乾杯(あ、ここ大切、生ビールじゃないところがミソ)。で、気の利いたおつまみを前に、さて、次、何を飲もうか?と考えていたところ、彼は「ボク、青りんごサワー」と明るく言い放ったのでした。いぶし銀的な渋いおつまみを味わいながらの青りんごサワー。人の嗜好はそれぞれで、正しいとか間違いとかそんなことはないのですが、そのセンスはなんか間違ってる。社会人になったばかりなので、お酒の飲み方を知らないんじゃないか、と推測し、食に対する生い立ちを尋ねてみたところ、案の定、一滴もお酒を飲まない両親に育てられたこと、そして4人家族で犬を飼っていて、犬を含め家族全員が同じ顔をしてるとのこと。
同じ顔の件はともかく、やはり、と思いました。
「好きな晩ご飯のおかずは湯豆腐です」と。
ビックリしました、湯豆腐でゴハン。言っときますが僕はお豆腐が大好きで、毎日欠かさず食べるんです。冷奴はもちろん、一人用の小さな土鍋でしみじみ湯豆腐。大好き。でもさ、それはおつまみだよ。ご飯のおかずにはならないよ(それは偏見だとか好みの問題だろといったクレーム覚悟で書いてます)。
麻婆豆腐だの肉豆腐などといったものなら、ご飯のおかずとして堂々とセンターを張れると思う。すき焼きの時、終盤、くたくたになった焼き豆腐とか大好き。でもさ、湯豆腐とか冷奴は白いご飯の有効なおかずになるんでしょうか。
定食屋さんなんかでもメインのお料理の横に小さな冷奴なんかがトレイの中に居たりするんだけど、意味がわからない。
お酒に合うものは、ほぼゴハンにも合う、というのは、もはや社会通念です。例外は、ホヤ、ナマコなど、そして白いままの豆腐、これらはお酒のシーンでは大活躍ですが、白いご飯には絶対に合わない、と断言させていただきたい。逆に、白いご飯にとは相性がいいけどお酒には合わないというおかずってあまりないような気がする。ぱっと思いつくのは「ふりかけ」くらいなものかな、あ、でも酒飲みは塩舐めながらでも飲むしなぁ、やったことないけどふりかけ舐めながらってのもアリか。
「本当に美味しいお米をかまどで炊いたご飯は甘みがあっておかずなんかいらないくらい」とか、本当に美味しいお豆腐には薬味なんかいらなくて、お塩をちょっとかけるだけでお豆腐本来の味が楽しめます」といったグルメなコメントに時々出会いますが、その度に「はぁ?なに言ってんの?」と思います。
淡泊と淡泊を合わせてどうする。人間関係だってそうでしょ、そんなの味気ないでしょ。あ、また脱線しそうになってるな。
あーあ、新年号だというのにまた、こんなことになってしまいました。(ちなみにおでんと白いご飯も合わないと思う僕です)。
令和2年だというのに、ごめんなさい。
エッセイスト 北園 修
Photo:藤間 久子『Slowly』